「個性が交差する学生服飾団体」|Keio Fashion Creatorファッションショー『How to Dress Love?』学生インタビュー
今年で創設23年目となる、慶應義塾大学を拠点に活動するKeio Fashion Creatorのファッションショーが昨年12月に行われた。今回はファッションに関わる学生に焦点を当てたインタビューとして、Keio Fashion Creatorの元代表上野莉瑚さん、元デザイナーチーフの飯島恒典さん、今年度デザイナーチーフを務める藤まいかさんに今回のショーについて伺った。

左より:上野莉瑚さん、飯島恒典さん、藤まいかさん
―改めてKeio Fashion Createrの紹介をお願いします。
上野:慶應義塾大学にあったファッションビジネス研究会から独立する形でサークルになりインカレとして活動しています。総合大学、専門学校の人それぞれ合わせて約170名が毎年在籍する学生服飾団体です。服という媒体の可能性を追求し自分たちの思考を表現することで社会へと発信しています。デザイナー、ディレクター、プレス、モデルマネージャーの四つの部署に分かれており、12月のショーを一番の目標としています。
―ほかのファッションショーを行う学生団体との相違点は何でしょうか。
飯島:服飾専門学校のエスモードと提携している点が他の団体にはない所だと思います。他の学校に通いながら週末専門学校に通うことは非常にユニークな経験が生まれると思います。総合大学で文学部に通っている人もいれば、政治経済を学んでいる人もいれば、語学を学んでいる人もいれば、建築を学んでいる人もいる。デザイナーにもそのような人が沢山いて。アウトプットの部分を鍛えることができるというのが提携しながらこの団体に所属することの面白さかなと思います。
―今回のファッションショー『How to Dress Love?』のコンセプトについて説明をお願いします。
飯島:そもそも問形式から始まったんです。Keio Fashion Creatorはクリエイティブディレクター的なトップダウンの団体ではなく、部署も分かれていてそれぞれ仕事が割り振られてるので、一人のディレクターが完全に操作する団体ではない。そのように考えた時にそれぞれが一人のデザイナーとして展示的なキュレーション形式でショーができたらいいんじゃないかとまず問いが出てきました。
上野:多くのデザイナーがいるからこそ、このような形式を目指したいと思いました。かつ、大きいテーマとして「愛」を設定し、問いの形式で「愛」を考えた末に『How to Dress Love?』、日本語に訳すと「愛をどう装うか」をコンセプトにしました。デザイナーそれぞれがその問いに対して回答する形、各々のルーツに基づいた愛の経験や愛をルックという形にして、そのショーテーマにアンサーする。それが、最初に言ったようなキュレーションのような形をとったファッションショーです。
上野:「愛」という目に見えないもの、概念的なものを言葉でもなくルックという形に無理やり形にしてみた時にどうなるか、少し実験的な部分もあって。だからこそ最終ショーの当日に面白いルックがたくさん生まれたんじゃないかなと思いました。
飯島:ファッションは他のデザインの領域と比べてエゴが比較的許容される分野というか、そこでとことんエゴを突き詰めてみたらどうなんだろうという個人的な思いもあって、このテーマがいいかなと思いました。
上野:デザインというと確かにファッション以外の部分だと、作り手重視というより、使い手を見る人が多くなりがちだから、確かになと思います。
藤:ルーツを交えるのもエゴじゃないですけど、そんなの見る人からしたら別にどうだっていいと言われたらそれはそうですが、ルーツや好きなものをルックに落とし込む。ロマンがあって楽しかったです。
上野:もう一つショーという形として一時的に保存するタイムカプセルみたいなショーにしたいという思いがあって。
飯島:時間軸として過去のルーツ遡って現在のショーで一回性をやって未来に残す、みたいな。
上野:ショーを見に来た人にメッセージまではいかないかもしれないけれど、その時みんなが持っていたであろう情熱みたいなものも思い出してくれるきっかけになったらいいなというのがきれいごとの一面ではあったのかなと思います。だから別名「タイムカプセルコレクション」と呼んでたりもしますね。
―学生としてファッションショーを行う意義とは何ですか?
藤:私はKeio Fashion Creatorに入ったきっかけもそうですが、物作りが好きなこととそれを見せたいという自分のエゴ、かっこいいとかそのような面で一個のショーを作り上げることにやりがいを感じます。と言っても私はデザイナーでまず自分のルックを作ることが求められるので、割と他のチームよりは、自分のペースで進めていけるけれど、周りの人が色んな面でディレクションだったり会場を抑えて内見に行ってくれていたり、プレスが色んな人にお声がけしたり、そのようなチームワークを感じつつ自分の作品の発表の場があることがいいなと思ってショーを頑張っています。
上野:学生ならではというのは考えるようにしています。というのも、非営利という所や、消費ではなくて、お金から一歩離れたところでファッションを表現できるというのはなかなかないと思うし、ファッション界自体がどんどんそのような潮流になっていく中で、私たちは学生として一回踏みとどまってファッションショーを行うことで、資本主義社会にとまではいかないけれど、ちょっと皮肉を込めたことも出来る。それが魅力かなと思います。
飯島:コミュニケーションが楽しかったです。ファッションには物体作りがあるじゃないですか。でも物体を作ることを介してのコミュニケーションというか、実際に今言葉交わしてるのもそうだし、交わしてなくてもそこから感じ取りあうのが楽しくて。美大だと物を作るのが当たり前に好きでそこを中心に話が回るんですが、もっと別の場所で自分の知らない話を知っている人が沢山いて。逆に物を作ることを一切してない美大にはいないような人もいて、そのような人から得られるものもそれぞれ沢山あると思うので良い機会というか、すごく楽しかったなって思います。
上野:学生ならではの未熟さみたいなものも含めてお互い楽しかったです。
藤:色んな視点が得られたと思います。専門分野も全く違うのでどういうことを勉強してるのか聞いたら、そんなのがあるんだ、とか今だから勉強できていることをみんな持ち寄ってくる。そんなコミュニティで色々なコミュニケーションを取ったり、一つのショーというものを作ったりするのが楽しいし、やっぱり学生だからこそできるのかなと思います。
これはみんなが思ってるか分からないけれど、モラトリアムっぽさをKeio Fashion Creatorの三年間は感じていて。大学生って特にそういう感じないですか?モラトリアムの中で、社会からも若干切り離された感じが良かったです。それが学生ならではなのかなと思いました。
デザイナー:飯島恒典さん
―製作で大変だったところは何でしょうか。また制作期間はどのくらいでしょうか。
飯島:鉄って切るのが大変なので、普通他の素材はレーザーカットが大体できるんですが、鉄は2000度ないとできないので、全部手作業で何百枚もカットしました。それをボール盤という専用機械で開けて、それを一つずつ手で繋げ合わせていきました。
上野:何パーツくらいあったの?
飯島:二千はあった気がします。あとそれを着せなきゃいけない。モデルさんも仕事をしてる方で傷つけるわけにはいかないので、そこには細心の注意を払っていろいろ検証しながらやりました。
上野:試行錯誤で完成しないかと思いました。みんなギリギリに完成するんですよ。エスモードが毎週土曜日にあるんですが、みんなギリギリで大変なので本当にすごいと思います。
飯島:今回特に別の仕事もあったので去年みたいに一人で前日に作ればいいというわけじゃなかったのと、大学の最終課題に展覧会を行うという課題があったので大変でした。期間は九月位から作りはじめました。
―インスピレーション元や具体的に思い浮かべたものはありますか。
飯島:インスピレーションは大抵ファッションからではないです。過去に建築家になりたいと考えていたことから建築的、彫刻的なアプローチを試みたり、根本的に文化人類学や文化研究の方が好きだったのでそこを起点に思考していくとか、そういうもっと曖昧なことが好きで。根本はファッションではなくて、たまたまこの団体に入っていたので衣服へアウトプットしてきたという感じです。
―Keio Fashion Creatorのインスタの投稿に載っているルックの説明に「アドレッセンスの決別と受容」と書いてありますが、それは元から考えて作ったのですか?
飯島:デザインの勉強をしていくと技術や意匠、構造への意識が強まってきて、元来自分の中であった根本的なものづくりの楽しさを忘れてきてしまっている感覚がありました。このショーを通して、自分自身のルーツを再確認して、自分の根本を思い出してみることを個人的な主題にしたく、このルックのテーマになりました。



デザイナー:藤まいかさん
―藤さんのルックについて説明をお願いします。
藤:三体通して自己愛をテーマにしていました。最初『How to Dress love?』を聞いたときに自分のルーツから、タイムカプセルに保存したい愛が出てきて。自分が取っておきたい愛に何があるかなと思った時に今までずっと自分に自信がなかったんです。今も自信がある時とない時の波が激しいんですが、高校大学ときて色んな人に会うようになってやっと自分が認められるようになってきて。そういう嬉しい気持ちとかポジティブな気持ちを保存しておくことで、これから就活が終わって社会に出ていく中で落ち込むことがあっても、タイムカプセルで見返せるようになれたらなと思って。自己愛をテーマに三体制作しました。
上野:割とポジティブな三体だね。
藤:でも、その三体それぞれのテーマは自分が自分を否定し続けてきた理由というか。一体目については、外見のコンプレックスについて。私は東京生まれで、公立の小中高に通っていたので周りがみんなアジアの日本人という環境で育ってきました。体が小さいころから丸いこと、肌の色もそうですし、外見が周りと違って体のことを言われるのがコンプレックスでした。
二体目のメンズのルックは自分が普通になれないことについて。考え方とかコミュニケーションの仕方が周りとは結構違って。見た目もそうですし、相手と考えていることが違ってどうしても上手くいかないとか、なんか浮いちゃうみたいな。三体目は性別について。女の子なんだからしっかりしてと言われる反面、お前男みたいだよなって言われることもあって自分の性別って何なんだろうと考えていました。そういう自分が嫌だったことをそれぞれかわいらしい感じにポジティブに捉え直していければなと思って作りました。
―製作で大変だったところは何でしょうか。また制作期間はどのくらいでしょうか。
藤:製作期間は、八月末とか九月から十二月ギリギリまで。大変だったことは花びら見たいなパーツが三体共通であったんですが、それは布を二枚重ねて一回縫って、それをひっくり返して周りにステッチを入れて、ワイヤーを通す作業が必要で。一体3~40枚くらいなので約120~150枚を全部手作業で行ったのが大変でした。素材もベロアの少し毛羽立った生地で伸びるし、切ると細かい毛が飛ぶんです。なので服が全部きらきらになって困りました。
―インスピレーション元や具体的に思い浮かべたものはありますか。
藤:私はモチーフに蘭の花を選びました。まず自己愛を考えていく中で、自分の体が醜いじゃないですけど何なんだろうって思うような見た目で、かつ私はアメリカと日本のハーフなんですが、ミックスされたルーツがあることと共通したようなものが何かないかなと思って。他に色んな植物を調べていたんですが、蘭の花は人が交配させて色んな種類ができたという背景があったんです。年中咲く花もあれば、決まった温室という環境でしか咲けない蘭の花もあって。見た目も綺麗だけれど、近くで見るとどこか気持ち悪いというか、性器みたいだなとか見れば見るほど面白いんです。それがすごくいいなって思って。色味だったり花びらの大きい小さいとか、あの五枚もそれぞれ違う形で面白いじゃないですか。面白いで片付けていいのか分からないけれど、そこにすごくその交配された、ミックス、ハーフというルーツとか、見た目の面白さ的にもすごく共通点が沢山あるなと思って、蘭の花からルックを作りたいと思いました。
―演出のこだわりについて教えてください。
上野:こだわりの一つは布です。
飯島:防炎チュールという透ける且つ燃えない素材を使いました。舞台芸術の影絵とかで使われる手法なんですが、照明を両側から当てると、人やものが透けて見えるようになるんです。その透けるというものが時間軸とも捉えられるというか。日本って幽玄っていう言葉があるじゃないですか。枯れたり老いていく姿を見て、美しいと感じるみたいな。ルックがチュールを媒介して透けて見えることが、過去と未来が交差して、時の流れを感じさせる、そういう要素になり得るかなと個人的には考えていました。
上野:8mというとても大きい布を使いました。
飯島:本当はタイムカプセルという意味合いにもできるので、円にしたくて。それが難しかったので、ディレクターチーフが頑張って建築ソフトで検証しながら、どうしたら座ってルックが透けて前後感が出るのかを考えて、当日も何回も照明を直していました。
上野:最初のファーストルックが出てくるときに心臓音のドンドンという音が流れて、それに合わせて照明もチカチカってなったんです。その心臓音と同時に。そうすると、さっき言っていた影絵みたいな形のルックの影が会場に大きく映る。そのためだけにライトを設置しました。上からの照明だけじゃなくて下において使う照明も使って。
飯島:24台くらい使いました。いつもそんな使わないんですけどね。
上野:そうなんです。過去最大規模です。大きかったのでお金もかかりました。
藤:場所も良かったですよね。東京タワーがあって、ショーが終わって外に出たら、満月と東京タワーがあって、「愛だな」って。大きい会場で綺麗でした。
上野:椅子一つにもすごくこだわりぬいたなと思います。それもディレクターチームの頑張りだったというか。会場の備え付けの椅子は使わずに発注して、自分たちが表現したいもののノイズにならないようなところまで細かく突き詰めたからこそ、このようなショーになったと思います。表現したいものがちゃんとみんなの目に映る。そういう細かいこだわりが沢山ありました。他には音楽もバンドチームに依頼をして作ってもらいました。歌唱シーンは本当に歌ってくれていて撮りおろしです。
飯島:あとフィナーレもクラブにいるDJに直談判しに行ったり。
上野:どうしても使いたい音源があってそれを使わせてくださいと言いに行くなど、一個の音源を作るのにも相当の時間を費やしました。
飯島:空間演出の基本ができたのが良かったです。スモークを焚いて、光の筋をだすとか。
―バンドに依頼した音楽はイメージなどを伝えて作ってもらったのですか?
上野:はい、そうです。こういうことをやりたいっていうのを言って。音楽にも担当の部員がいるんですが、その周りで探してもらって依頼しました。撮り直しをしたりとかカットをしたりとか試行錯誤して作りました。
―イメージと違ったということですか?
上野:はい。ベースがイメージと違って。
飯島:ギターがソロみたいで。
上野:ピアノの音もとってるし、スモークもやりました。光の筋が見えるように。
飯島:ムービングライトも使いました。
―ほかにも表現手法がある中でなぜファッションショーという表現媒体を用いているのですか?
飯島:ファッションショーは常設の展示とは異なり、一回性、瞬間性が伴うプレゼンテーションや装置の一つだと思います。過去の情熱を今現在の自分たちの手で表現していくという時間軸が重要なテーマにおいて、その特徴を生かすことができると思いました。
藤:表現の手法としてなぜファッションかというと、私が個人的にデザイナーとして服を作るうえで面白いなと思っているのは、人が着て初めて完成するところです。絵画などは出来ているものがあってそれを見る、単体として出来上がってるものに対してショールックは人が着て、それこそ一回性でいえばどんな人に着てもらってどう歩いてもらうかで見え方とかシルエットも全然変わってくるのが面白いなと思います。他のデザイナーのフィッティングも見ていたんですが、モデルさんのシルエットでルックも全然違うように見えるというか。トルソーに着せていた時はすとんとまとまって見えていたけれど、選んだモデルさんの思わぬところが違うサイズ感でシルエットがすごく変わったりして。歩き方も人によって結構違うんです。見るルックの印象も全然違うのがすごく面白いなって思うので、人が着るものを作ってます。
―最後に一言お願いします。
上野:本当に沢山の人に感謝した、感謝の気持ちが溢れたショーでした。愛に溢れたショーを作りたいと思って制作してきましたが、モデルさんもそうですし、美容技術専門学校の方だったり、エスモードの先生方だったり、部員だったり、沢山の人数の方がこのショーには関わってくださってこんなに感謝の気持ちが溢れた経験は初めてだったのでそれに圧倒されました。
本当にありがとうという気持ちが一杯と、みんな愛してると思いながら、自分がKeio Fashion Creatorで過ごしてきた3年間もそうですし、このショーを通して人に対しても感謝の気持ちを伝えられたんじゃないかなと思います。
飯島:同じです。
上野:本当に感謝です!
藤:私はどちらかというと、自分を見つめ直すショーの制作期間だったかなと思います。特にテーマが自分にフォーカスしていたのもありますが、そういう意味で自分の人生を振り返って色んな人に育ててもらったこと、このショーを作るうえでもたくさんの人と関われたことに感謝です。
上野:色んな方が関わってくれるような団体にできたことをすごく誇りに思える3年間だったと思います。
written by Riko and Minam
